PISパートナーズ コラム

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「CSはESを上げるための手段」―ネッツトヨタ南国 その2 メルマガ5号より

 ネッツトヨタ南国のレポートの2回目です。前の号では、ES(社員のやりがい第一主義)のためのCS追求の経営を貫いてきたこと。また、同社の経営の特徴は、現実を見据えた上で原則にそって本質を掘り下げる思考と対話にあることをお伝えしました。



 今回は、同社の人の育成や組織づくりについてみていきます。ネッツトヨタ南国は、採用をとても重要なものと位置付けています。横田会長によると、「質を追求する経営を目指そうとしたら、質のいい人材を確保しないといけない。特に人柄とコミュニケーション力は、入社してからの教育ではなかなか難しい」とのこと。創業から10年ほどは、横田会長(当時社長)が学生の呼び込みから面談まで陣頭にたって行っていました。社長が直接、学生にあって経営ビジョンや思いを語るわけですから、インパクトはあったはずです。採用はトップがかかわると最も効果的な業務だと断言していました。

 現在は、横田会長は、採用の前面に出てくることはありません。片腕以上の人材がいるからです。89年に新卒で採用された大原氏が中心になっています。大原氏は入社してすぐに、横田氏から「すべて任せる。好きにやっていい」とだけ引き継ぎをうけました。実際、横田氏が口を出すことは、ほとんどなかったとのこと。試行錯誤を経て、現在の採用スタイルは、実際に業務を経験してもらうインターンとセミナー後の面談方式になっています。学生に「何のために働くのか」という問いかけから始まり、お互いが納得するまで何度でも対話を繰り返します。一人平均35時間、多い学生だとのべ200時間にもおよぶ面談を行います。就職活動を通じて、学生自身に自分の働く意味や本当の適性を見つけてもらうための採用活動です。実際面談している中で、自動車販売でなく、違う業界が向いていることに気づいてもらうことも少なくないそうです。
 採用の最後のステップは、10数名のマネジャーと面談し、マネジャーのうち一人でもダメ出しがでたら採用されないようになっています。マネジャーにもプレッシャーがかかります。自分がOKして入ってきた新人は、なんとしてでも一人前にしないといけません。

 自動車販売業界は、離職率が高い業界です。その業界にあって初期の頃こそ、辞める人はいましたが、今では、明確な理由以外ではやめる社員がほとんどいません。給料も、休日の条件もネッツトヨタ南国よりもよい会社からスカウトの声がかかる社員も多いのですが、「やりがいがあるので、この会社で働き続けたい」と、スカウトに応じる人はいません。



 では、入社した後の育成は、どのようになっているでしょうか。
同社では、入社してからは「教えない」が基本。社員が「気づき」「考え」「行動する」まで待つのが習わしになっています。自分たちでトコトン考えさせ、仕事を任せられます。ですからマニュアルは存在しません。また、先輩がこうしないという指示もありません。「失敗を恐れるな、うまくやろうと思うな。思いっきりやれ」というのが仕事をさせるときの基本スタンスです。
 たとえば新人研修の一環として、目の不自由な方の「お遍路」に同行し、サポートする活動があります。企画から運営まで新人に考えさせ、実行させます。ただし、やりっぱなしにするのではなく、はじめと想定したことと、実際の違い、それはどこから生まれたか、また一連のプロセスから何を学んだか、しっかりと振り返りをさせるようにしています。具体的なやり方を教えるのではなく、学び方、気づきの方法を教えているとも言えます。



 同社の人材育成の場としてプロジェクト活動を抜きに語ることはできません。お客様対応の改善や新車発表会のイベントなど、プロジェクトで進められることが多く、価値観を共有、考える力をレベルアップさせていく機会となっています。横田会長は、雑誌のインタビューで次のように語っています。「プロジェクトのねらいは、プロセスを共有していくことで、気づく力、考える力をレベルアップすること。メンバーの出入りは自由で、結論を急がない、多数決で決めないことがモットーです。議論を続けていくと、経営理念に合わない考え方は自然に気づくようになり、価値観が浸透していきます。そして次第に部長の判断基準を課長が、課長の判断基準を主任が、主任の判断基準を新入社員がもつようになる。世代間ギャップも埋まります」。(『COMPASS』 2007年6月号』)

 現場のルールや決めごとを、多数決や上位者の権威でものごとを決めないのは理由があります。現場で実際対応するスタッフが納得していなければ、どんな良いことを決めたとしても、成果をあげることはできないと考えているからです。
 前回紹介した顧客対応システムも、もとはと言えば、ショールームでの「男性娯楽雑誌を置いてほしい」という声にどう対応すべきか、というプロジェクトから生まれたものでした。プロジェクトのみんなが納得するまで対話を重ねた結果生まれたシステムなので、確実に根付いています。



 経験の少ない人に任せたり、議論を重ねたりする方式は、一見すると効率のいい方法ではありません。例えば、ショールームの運営は、若手のスタッフに任されています。担当する人が変わり、また同じような問題が起こったときに、同じテーマで議論することも起こってきます。しかし、先輩達は、「前、話し合ってこうだったから、こうしなさい」とは言うことはありません。後輩が自分たちで何かを解決しようとして議論している時には口出しせずに、見守るのがルールです。時間がかかっても、自分で判断できる、気づいて行動できる社員になってもらったほうが、本人にとっても会社にとっても望ましいという考えなのです。

 「成長を実感したい、そのために自分を高めていこう」とする社員にとっては居心地のいい会社です。しかし、明らかに劣っているのに、「努力はしたくない、このままでいいや」と思う人にとっては、居づらい職場になっているとのことです。
 横田会長が、組織にふさわしくない人に、どのように対応するか、について例をあげて説明していました。「仮に、お客様に笑顔で対応しようとみんなで決めたとする。笑顔のうまい、ということで序列をつけて全員投票を繰り返す。すると下位になる人は、努力してうまくなろうとする。努力しない人は、同じようなことがフィードバックされ、居づらくなってやめていく。そんな具合に組織の方針にふさわしくない人が、自ら排除されていく」。
 メンバーからのフィードバックがオープンに行われる組織風土は、ある意味で緊張感のある組織です。自分を高めようと一生懸命になっている人が多いから他のメンバーに対しても一生懸命やってほしいと期待します。実際メンバー同士で、フィードバックしたり、アドバイスし合っています。もちろん良かったことは、素直に「よかったね」、「頑張っているね」と反応がきます。何人かのスタッフに伺っても、決してぬるま湯のような職場ではない、とのことでした。



 組織風土は、メンバーの行動に強い影響を与えます。ネッツトヨタ南国の場合は、組織風土がより強力な企業文化やDNA(その会社らしさ)となっています。その企業文化は、自らの成長や喜びを追求するために、お客様を感動させ、喜ばせようと自律的に考え、行動する企業文化です。それが他社が追随出来ないCSレベルを実現し、結果的に高い業績をもたらしています。

 このように長年かけて作り上げた企業文化は、すぐに真似しようとしても、難しいものがあると思います。また、表面的に取り入れても、根付くのは難しいでしょう。しかし、ESとCSと業績の同時拡大を目指したときに、参考にしていただきたい考え方はあります。
 ネッツトヨタ南国のCSの考え方は、他社と差別化したり、業績を上げるためにCSではなく、従業員の「ES」、つまり「成長する実感」や「やりがい」を高めるための手段としてのCSです。働く人間、一人ひとりの本質的な欲求を満たそうとしています。だからこそ、自律的に向上し続けるCSの取り組みが可能となっているのです。



 CSがESに与える影響に気づくと「なぜ、CS向上に取り組むのか」と部下から聞かれたときの会話が変わってくるかも知れません。「お客様にたくさん喜んでもらえば、売上、利益が伸びる」という答えだけではなくなります。 「お客様が喜んでくれると、(自分達は)どんな気持になる?」という投げかけもぜひ、部下にしてみてください。