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きびしい環境下で多くの企業が成功のヒントを模索するなか、本質を追求してきた会社が一段と輝いて見えます。ネッツトヨタ南国(旧トヨタビスタ高知)は、輝いて見える会社の1社です。
高知市に3店舗を構える、社員125名、売上36.7億(21年3月期)のカーディーラーですが、CS先進企業としていま全国から注目を集めています。トヨタ系列のディーラー約300社のなかで9年連続CS(顧客満足)評価第1位を獲得し、利益率でも上位に入っています。また、販売台数も、ここ7年、少子化・車離れの中、他のトヨタ系列販売会社が軒並み右肩下がりで苦戦している中、2002年比で146%と順調に売り上げを伸ばしてします。
お客様囲い込みの指標であるトヨタクレジットカード保有率、使用率も、販売会社平均とくらべてそれぞれ2倍、4倍という、ダントツの実績をあげています。すぐれた会社経営とその成果で、2002年には経営品質賞を受賞しています。リーマンショック後、新車販売が軒並み苦戦している中、2009年1月−8月は、過去最高の業績をあげました。
ここで短絡的に、「CSはやっぱり儲かるんだ」と考えてはいけません。その根底に流れる経営思想や組織運営の手法が他の会社とは異なるのです。しかも、一朝一夕に出来上がったものではなく、時間をかけて作り込まれています。だからこそ、持続的な成果をあげ、いまでも進化し続けているのです。
ネッツトヨタ南国の好業績の秘密はES(社員のやりがい第一主義)のためのCS追求の経営を貫き、本質を考える組織風土と人材の育成に地道に取り組んできたことにあります。
多くの会社が取り組んでいる「業績を上げるためのCSの追求」ではなく、極端な言い方をすると「社員のESを実現するための手段としてのCS」なのです。
現会長の横田氏は、高知のある企業グループが1982年にビスタ販社を立ち上げる際の創業メンバーでした(はじめ副社長、のち社長)。自動車販売はまったくの素人で、グループ企業から人材支援も得られない中でのスタートでした。横田氏は、売上や規模を追う「量の経営」ではなく、社員やお客様の幸せを追求する「質の経営」を目指そうと考えました。これは量(売上・利益)を捨てるというのではなく、「量か、質か」、と言われたら、明らかに質を重視するというものです。
では、横田氏が考えた社員の幸せとは何だったのでしょうか?
社員の幸せは社員に聞くのが一番とシンプルに考えました。そこで、社員に「会社望むこと」を書いてもらうアンケートを取りました。その結果は、「自分が成長できる会社、お客様に喜ばれる会社、チームワークやコミュニケーションのいい会社」というものが大半でした。突き詰めていくうちに、「ES(やりがい)を高めるためには、CS(顧客満足)を高めればいいのだ」という考えに至りました。つまり、「お客様から感謝されることで自分の成長を実感できる、また感謝の声を聞けば働いている自分達がうれしいし、気持よく働ける」。また、そのような仕事をするためには、自ら考えて次から次へと新しいことにチャレンジすることやコミュニケーション、チームワークが必要になると考えたわけです。
このように同社の経営の特徴は、現実を見据えたうえで原則にそって本質を掘り下げる思考と対話にあるといえます。(カーディーラー経営のノウハウや業界出身者がいないという現実、いきおい量の拡大はできない、製品では差別化できないという現実、社員が財産、その社員が働きたいと思う会社をつくろうという原則、そのためには社員の望むことを知る、アンケートも対話のひとつ)
ネッツトヨタ南国のCSのとらえ方について象徴的な事実と、そこに至るエピソードを紹介します。カーディーラーなのに、ネッツトヨタ南国のショールームには、展示車が1台もありません。同社がスタートした時、ディーラー営業のプロが社内にはほとんどいませんでした。そこで、当時主流の訪問型セールスではなく、お客様に来店していただく営業スタイル(店舗来店型セールス)をとることになりました。そうすると、お客様が来たいと思うようなお店にしなければなりません。どうしたらお客様にとって居心地のいいお店にできるかと考えた結果、リゾートホテルのロビーのようなショールームにしました。はじめのうちは、ショールームに新車を置いていました。しかし、お客様に広い場所で気持ち良く過ごしてもらおうとしているうちに、「クルマがショールームになくてもいいんじゃないか。」ということになり、いまではクルマは外に出し、ショールームには1台も車を置かないことにしました。その代わり、試乗車を全車種揃えるようにしたのです。これも、現実を見据えたうえで原則にそって本質を掘り下げる思考と対話の結果といえます。
これまで見てきたように、同社の会社運営には、対話が大きな役割を果たしています。物事を決めるときに決して多数決では決めません。関係者が納得するまで話し合うというようにしています。というのは、実際に実行する人たちが納得していなければ、何を決めたとしてもうまくいかないと考えているからです。対話を重ねるうちに問題の核心に行き当たり、そこから本質的な解決策につながることも少なくありません。
あるときお客様の声からショールームに男性向娯楽雑誌を置いてほしいという声がありました。この会社では、ショールームの運営は若手にまかされているので、上の者が決めることはありません。ショールームに関することは、ショールーム担当者が話し合いで決め、それに全員が従うのがルールとなっています。ショールームに男性向娯楽雑誌を置くかどうかをめぐって、ショールームの運営を任せられている若手のスタッフは話し合いを重ねました。問題になったのは、「家族でくつろげるショールームというコンセプトなのにヌードグラビアが時々掲載される雑誌をお客様の要望だからと言って置いていいのだろうか」とうことでした。そうするうちに「お客様が男性向娯楽雑誌を読みたいというのは、お客様が退屈しているからではないのか、お客様が退屈と感じさせない工夫をすべきではないか、自分たちが提供すべき時間は何なのか」という話し合いに発展していきました。結果として、暇つぶしの娯楽雑誌は必要最低限とし、それよりもスタッフがお客様に直接コミュニケーションをとる時間を多くとろうということになりました。そこからお客様対応システムの開発や様々な対応の改善につながっていったのです。お客様対応システムは、ショールームの端末でお客様の趣味や嗜好、対応履歴を参照できるものです。このシステムによってそのお客様の担当のスタッフがいなくても、他のスタッフが連携しながら、きめの細かいコミュニケーションや接客が可能となりました。このシステムの開発のために、誰か担当者をきめてIT開発会社に丸投げするのではなく、ショールーム担当のスタッフ中心となってプロジェクトで話し会いを重ねながら仕様を決めていったそうです。開発期間は通常の倍以上はかかることになりましたが、みんなの要望をうまく吸い上げているので使い勝手もよく、活用され、成果をあげているようです。(ちなみによその会社がシステムをまねして作るとのことですが、結局うまく使われずに、挫折することが多い、とのことでした。)
CSの強化というと、お客様の要望に額面通りにそのまま対応する、ともすると「迎合」になってしまう危うさがあります。すぐに対応できものであれば、問題ないのですが、突き進めていくとどこかで壁に突き当たり、消耗戦に突入してしまいます。ですから、お客様が本当に求めていることは何か、を見抜き、自社の強みで対応できるように翻訳することが重要です。いいかえるとお客様のニーズの本質をつかむ洞察力で差別化しないと、競合他社と似たりよったりの対応しかできなくなります。この洞察力を組織の中に培うには、ネッツトヨタ南国の例で見たように、現実を見据えたうえで原則に沿って考えることと、対話することが欠かせません。対話のなかから本当のお客様のニーズ、満たされていない欲求が見えてきます。これが組織としての智恵です。すぐれた組織風土が対話と智恵をはぐくむ土壌となっています。
次回の号では、ネッツトヨタ南国がどうしてこのような組織風土を作ることができたのか、掘り下げて考えてみたいと思います。