PISパートナーズ コラム

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「社名を言えなかった会社」が就職人気企業になった―メルマガ3号より

清掃会社の仕事というと、皆さん、どのような印象をもちますか? 年配の方が、うつむきながら黙々と仕事をしている。はた目から見ても決して楽しそうに見えません。できれば働きたくない職場というイメージではないでしょうか(これは私の偏見かも知れません)。

そんなイメージを一変させる会社が高知にあります。
四国管財(株)は、オフィス、ショッピングセンター、病院などの清掃やビルメンテナンスを行っている会社です。従業員は約500名(うち社員約200名、ほか清掃スタッフ等)、売上12億の企業で、業績を順調に伸ばしています。高知県内では、就職希望企業ランキングの高い企業の一つに入っています。周りやお客様から「笑顔が素敵でイキイキお仕事をされている方が多いですね」と言われることが多く、元気な会社として一目置かれている会社です。クライアントの満足度も高く、価格ではなく、サービスの質の高さでお客様やサービス領域を確実に増やしています。サービス優良企業(ハイサービス300選)にも選ばれています。高知県の教頭派遣研修の受け入れ企業でもあり、ユニークな経営を参考にしようとする視察者が地元はもとより、全国からひっきりなしに訪れる会社になっています。

四国管財(株)は、もとからこんなに注目を浴びるような会社だったわけではありません。変化のきっかけは、中澤清一氏(創業者の息子)が、社長に就任した12年前でした。社長がベテランの社員に「子供さんに、わが社のことをどんなふうに話しているの?」と尋ねたところ、次のような答えがほとんどでした。「会社や仕事のことは子供には隠してますよ。お掃除業なんて恥ずかしくて子供には言えないです」 これを聞いて中澤社長は、「社員が自慢できる日本一の会社にしよう」と決心したのです。

まずは、どんな会社にしたいのか、経営理念や行動指針を明確にしました。
同社の経営理念は、「私達は、自分達の夢の実現の手段として四国管財においてお客様に『笑顔と挨拶と報連相と環境を意識した丁寧な仕事の実践』により自分も含めて全ての人々に感動を提供致します」
最初は、よその会社のものを参考に、借り物のような理念だったと言っていましたが、なんども自分たちで見直し、現在のものになったそうです。
ユニークなのは、会社を社員の夢の実現の手段として位置づけている点です。また自分も含めて周りの人たちに感動を与えられる仕事をしようとしています。つまり従業員の幸せ=従業員満足を目指すがことが前提だが、プロの仕事で、お客様を感動・満足させることにより、自分たちも感動を味わおう、というものです。

四国管財の社長の話を聞いて感じたことは、経営理念とそれを実践するための考え方や取り組みが整合性をもっていることです。

たとえば、報連相(報告・連絡・相談)を徹底するといことでは、研修で報連相の大切さを学ぶだけでなく、仕組みが用意されているのです。クレームや社員からの相談事が、365日、24時間いつでも「お客様係」(社長ふくめ15名)に5分以内に伝わり、3分以内にアクションをとれるようになっています。しくみだけでなく、マイナス情報や現場でうけたクレームをオープンにできるような組織風土を粘り強く作っていきました(2−3年かかったそうです)。ちなみに同社では、クレームは仕事の改善のヒントにつながる宝の山ととらえ、「ラッキーコール」と呼んでいます。クレームや社員の相談事は、社長をはじめとするお客様係の誰に伝わっても、即答か、解決に向けてすぐに動き出します。よく報連相を口酸っぱく言っている組織で、メンバーが相談しても、上司は聞くだけになって解決の支援が得られなかったり、すぐに動いてくれなかったりすることがあります。しかし、同社ではそのようなことがないので、報連相がお題目ではなく、実際に機能しているのです。

社員重視の考えは、社員ひとりひとり夢の実現を本気になってサポートしていることにも表れています。夢の実現のために1年に一度、全従業員は、自分の夢を紙に書いて提出することになっています。また名刺の裏に、自分の夢を印刷するようになっています。社内報で社員を取り上げるときには、その人の夢が記載されます。その夢とは、会社のために売上をどうするなんていうものではなく、あくまでも自分の夢、自分が大切にする家族の夢を書くようにします。夢は「家族でディズニーランドに旅行にいく」「40歳で独立したい」「家を建てたい」「歌手になりたい」など様々です。はじめの頃は、仕事をする職場で、夢なんて気恥かしいという雰囲気があったそうです。しかし、今ではオープンに口に出して言えるようになり、「あの人はあの夢を実現しようとしているのか」というに周りが受け止めているとのことです。会社や周りの同僚はできる限りその夢の実現のために支援しています。具体化するための相談に乗ったり、みんなの前で発表したりする機会を意図的に設けています。実際、ジャズダンス教室の先生になったり、歌手としてデビューしたりした社員が出ています。

社員重視の考えは、お客様の定義にも表れています。同社が考えるお客様は、サービスを提供する相手としてのお客様だけでなく、社員もお客様ととらえています。お客様係は、社員のプライベートな悩みの相談に乗ったり、解決の支援を行ったりしています。たとえば、家庭内暴力や不登校の問題を抱えていると、それらがストレスになって職場でのミスや事故につながるからです。もっと重要なことは、本人も仕事を通じての感動など得られなくなることなのです。

お客様だけでなく、社員にも感動を与えるようなサプライズのイベントが頻繁に行われことも同社の特徴です。たとえば、クリスマスイブに一人でいる社員のもとに、社長がサンタの格好をしてプレゼントを配ったり、入社予定者の卒業式に祝福のメッセージと花束を持って駆け付けたりします。
中澤社長は、次のように言っていました。「やりがいや感動をもってやることは疲れないですよね。たとえば、夜なべして手袋を編む母親は『つらい』とは思っていない。人を感動させることで自分も感動することも多いよね。仕事や職場で感動をいっぱい体験できたらいいよね。そんな気持ちでやっているんです」

仕事でも、お客様から感謝されたり、ほめられたりすることが、多いようです。お客様に喜んでもらえることから、自分自身が感動をもらい、それが社員満足につながり、同時に業績にもつながっている−そんな好循環ができているような印象を受けました。

社員重視の経営を貫きながら、高いお客様満足を実現している四国管財ですが、一朝一夕に現在の姿になったわけではありません。よその会社でやっていることを参考にし、試行錯誤しながら絶えず見直してきたそうです。中澤社長は、「形を真似るのではなく考え方を真似て、時間がかかっても自分達に合うように直し続けていくというのが大事だ」と強調していました。実際、中澤社長は、経営品質賞にエントリーするなど、いろんなことから貪欲に吸収しようとしていますが、他社のものを取り入れるときには、形よりも考え方を吸収しようとしています。

経営環境が厳しくなればなるほど、苦しい時の神頼みではないですが、ベストプラクティス、成功事例を必死になって探すようになります。その際、目に見える形に振り回されるのではなく、その根底にある考え方を掘り下げて学ぶことが大事だと、四国管財さんを訪問し、つくづく思いました。