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ES(従業員のやりがい)とCS(お客様満足)は、双方向に影響しあいます。
まず、ESからCSへの影響を見てみましょう。
会社や仕事に不満、不平を抱えたスタッフは、体から湧き出るような感動的な笑顔で接客サービスはできません。職場に不満をもった従業員が、お客様を感動するような製品のアイディアを提案することは、あり得ません。したがって、CSを高めようと思ったら、ESを高める必要があります。これは、過去、いくつもの実証調査で明らかになっています(W.アール・サッサーJr他、サービス・プロフィット・チェーンというモデル)。
従業員の労働条件や待遇を犠牲にしてCSを向上させようとする考えは、どこかで破たんします。「お客様第一主義」を唱えながら業績が悪化したケースや倒産した会社は意外と多いのです。
お客様サービスを優先したために、従業員が疲弊したり、ストレスがたまったりしているケースです。その場合、退職者が続出し、残されたスタッフへの負担がますます増えるという悪循環に陥ってしまうのです。その結果、人員不足や補充された未熟なスタッフによるサービスの低下により、顧客離れが起こってきます。
『「顧客満足」の失敗学』(瀬戸川礼子著、同友館)で岡山県のシーアールホームという住宅会社が実名で紹介されています。かつては販売力と施工技術に定評があった会社でしたが、社長の行き過ぎた「顧客第一主義」に社員がついていけませんでした。休日返上の顧客対応やCS研修などで勤務条件も悪化し、退職者が続出しました。スタッフの大幅な入れ替えもあり、顧客への対応レベルも下がり、ついには倒産してしまいました。
正反対の会社もあります。
ヤマト運輸は、CSに力を入れている会社ですが、宅配事業を展開する上でESを重視した経営を貫いています。どんなに素晴らしい仕組みを作ったとしても、第一線の従業員のモチベーションが高くなければ、うまく機能するはずがないとい考えているからです。
ヤマト運輸は、従業員の負荷を減らすための労働環境や作業条件などの改善を常に行っています。たとえば、配送用の車両は、車を降りずに運転席から貨物室に立ったまま歩いて移動できるように、トヨタ自動車と共同開発したものです。また、働きやすいオープンな職場風土作りに力を入れ、360度サーベイを実施し、フィードバックにも力を入れています。(「小倉昌男 経営学」、日経BP社)
その結果、同社の定着率は、業界でも高いレベルになっています。お客様にしてみれば、勝手を知った馴染みのセールスドライバーだから荷物も頼みやすい、ということにつながっていきます。
ここで言いたいのは、ESを高めれば、CSが自動的に高まるということではありません。ESを犠牲にしてのCSの向上はうまくいかないということです。
ESの向上が、CSの向上に結び付くためには、組織としてのCSに対する方針や考え方を浸透させるという前提条件が必要です。さらに、現場のスタッフが自らの判断でお客様のニーズに臨機応変に対応できようになっていることも重要です。
次に、CSからESに対する影響を考えてみます。
CSを高めることで、ESが高まるという関係もあります。この関係は、最近注目されている考え方です。四国管財やネッツトヨタ南国のケースで見たように「お客様に喜ばれることがうれしい」、「他人を感動させることで自分も感動したい」というものです。
これは、特殊なことではありません。他の企業でも、高い業績をあげている人に共通して見られることです。かつて不動産仲介会社のトップクラスの業績を上げている営業マンの10数名にインタビューをしたことがありました。そこで共通していたのは、お客様を満足させることが、彼らの大きなモチベーションになっていたという事実です。「○○さんのおかげで、いい物件が見つかりました」、「ぜひ、○○さんに、私の知人で家を探している人を紹介したい」といったお客様の満足の声です。
組織をあげてCS意識を高める方法の一つとして、お客様の生の声をフィードバックすることが効果的です。お客様の声によって自分たち存在意義を再確認し、仕事に意味を与えることができるのです。
パチンコホールのマルハングループのCMは、お客様に感謝されたエピソードを紹介しています(あるスタッフが、雨の日、濡れた傘を一本ずつ拭いてしずくがたれないようにし、お客様から感謝された、等)。そのCMはお客様に対するものであると同時に、従業員やその家族に向けてのフィードバックも兼ねていると思われます。
何かとマーケット環境がきびしく、成功体験が積みにくい状況が続いています。自分達の商品や仕事に自信を取り戻し、モチベーションを高めていくためにも、意識して「お客様からの満足の声」を集め、社内にフィードバックする工夫をしてみてはいかがでしょうか。